イフガオの棚田
2004年から住友財団の助成を受けて、フィリピン大学とイフガオ州(フィリピン)の棚田・集落の国際共同研究を行っています。
イフガオやベンゲットの棚田は、標高700-1500mの山肌に広がっている。イフガオの棚田は1995年に世界遺産となった。
ただ、棚田での米づくりは人件費のわりに利益は殆ど出ない。観光客は増えたが、石積みは崩れ、灌漑も壊れた。先人の知恵や技術が途絶えていき、壊れた棚田を直す人もいない。これは日本各地の棚田も同様。イフガオの棚田は2001年も危機遺産に登録されている。
棚田は世界遺産の中で最も保存が難しいといわれている。棚田は人を遠ざけたら残すことができないからだ。米づくりを続けなければ棚田は崩れていくが、収益のでない農家にそれを強制できない。加えて、広範な森、つまり共有林も管理しなければならない。
イフガオにはMuyonという共有林が棚田の上位に広がっている。棚田に水を供給するための保水機能を有する重要な森だ。その共有林も荒廃が進んでいる。一度荒廃すると森を元に戻すのは本当にやっかいだ。
また、イフガオ内部にも格差の問題が顕在化している。よく知られているバナウエには国際的なNGOやJICAの支援があるが、Mayoyao等には及んでいない。
保全と生活をどう両立させるか。
僕が担当する、住まいの調査でもこの問題に直面している。高床式の伝統的な住宅は、訪れる者を強く引きつける。堅牢な木構造の躯体も、架構も、そのディティールも見事だ。が、そこで聞いたことは現代的な住まい方の希求とRC造への改築要望ばかりであった。生活に余裕があれば真っ先に住まいを現代的なものに建てかえたい。このこと自体を我々は否定できない。
イフガオには「自由」に当たる言葉がないらしい。それは自由があたりまえだったからに違いない。 個人の意志を最大限尊重する伝統こそが棚田とそれをとりまく環境を守ってきた。その個人を尊ぶ伝統が失われるのなら、「かたち」だけの祭りや棚田、住まいを残しても意味がない、と訪れるたびに思う。
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